無題
意外な言葉に、たしぎはゾロの顔を仰ぎ見た。この男からそんな言葉が出るなんて…。 「おい、何じろじろ見てやがる」 よっぽど驚いた顔をしていたのだろう。居心地悪そうにゾロがうめいている。たしぎはその声でようやく現実に引き戻された。 「あなたこそ、こんなところで何してるんです!?」 とっさに、出てきた言葉にたしぎはふいに悲しくなった。どうして自分はいつも、こうなんだろう。誕生日くらい、この男の誕生日くらい、優しくしてやりたい。 「おまえがいないかと思って、探してた…」 顔を赤くしたのは、たしぎではなく言った当人だった。「…ロロノア?」 わけが分からない。まさか、この男がこんなことを言うとは思いもよらなかった。さっきの言葉といい、この男はどうかしてしまったのだろうか。しかも、言った後ここまで顔を赤くするなんて。 混乱しているたしぎをまえに、ゾロはますます恥ずかしくなった。こんなセリフを素面で言った自分に拍手を送りたい気分だ。サンジの「思いがけずにレディに会ったらこう言おう」講座で、教わったセリフだった。ウソップに無理やり付き合わされて講座を受けていただけなので、教わったといってよいかどうかは定かではないが。得意満面のサンジの顔が、いまでもありありと思い出される。「まあ、どっかの剣術馬鹿には一生かかっても言えねえだろうがな」どうだ、言ってやったぞ!俺だって、そんなに色恋にうといわけじゃねえんだ!照れ隠しだか、やけになったのか自分でもわからないが、ゾロは心中でほえていた(顔は果てしなく赤くなり、あげくにたしぎの顔なぞ恥ずかしくて見れたものではなかったが)。 「あ、あのロロノア…。ひょっとして…私に捕まるつもりなんですか?」
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