No.204/砂糖増量中。様


幸せってこういうことだと思う。


 世界で一番強くなる。ただの剣士ではなくて、剣豪。それも大剣豪になる。刀3本で世界を掴む。
それが彼の夢。すべての理由。
名刀をあるべき所に返す。名刀は名人たる者が持つべき物だから。刀を集める。
それが私の夢。すべての理由、だった。

二人の夢は対立していて、だけど心は共通していた。それでも一歩を踏み出せなかったのは、
夢に賭ける情熱があるから。恋をしたらその情熱までも削ってしまいそうだから…私の場合は。
お互い刀バカで、でも私は幸か不幸か女で、そして恋を認識してしまった。
彼は悩んでいた。どう悩んでいたのか、話してはくれなかったから、そこまでは判らないけど。
それでも悩んでいた。
だから答えてくれなかったし、求める事もできなかった。

「女一人背負ったくらいで、だめになるような夢なのか?それでだめになるようなら、それだけの
もんだったんだ。それなら夢は夢でしかねぇぞ」
そう彼に言ったのはルフィ・D・モンキー。彼はそれを聞いて覚悟を決めた、らしい。
以来私は海軍を抜けて(脱走になるのかな)、ルフィ海賊団の船に、ロロノアのそばにいる。


甲板で空樽を背もたれに、お酒のボトルを持って、傍らに3本刀を置いてあぐらで座っている。
海が穏やかな夜のあなたは大体そう。お約束の寝息が聞こえないのは、今夜の見張り当番があなただから。
私の足音に視線だけ向ける。視線にも緊張するのは恋してるから。

「このまま静かな夜だといいですね」
「ああ」

どうしよう、会話が続かない。素直にそばにいけないこの性格が嫌になるのは、こんな時。
普通に隣りに座ればいいだけなのに。あなたの横で立ったまま。

「こっちこいよ」

そんな私と違って、あっさりと言い出せるあなた。私の手を掴む。
背後から抱えるようにもたれさせてくれる。私の両脇にあるあなたの長い足。その膝に手を置いた。
後ろから抱きしめられることが多いのは、私が正面を向かないせい。
首筋にふと、暖かい唇を感じた。
首筋に軽くキスされて、胸がきゅんってなる。こういうことって本当にあるんですね。

「ロ、ロロノア、月がきれいですね」
「なんで動揺すんだよ」
「え、いや、別に」

もう一度首筋にキス。胸が痛い。

「たしぎ、こっち向けよ」
「え、どうしてですか」
「くだんねーこと聞くな」

頭を手で支えられなから振り向かせられる。すぐ近くにあなたの顔がある。
どちらともなく目を閉じてキスを交わす。
そこでようやく私も素直になる。
あなたの肩に頭を置いて、目を閉じる。暖かい。幸せってこういうことだと思う。

「…んな顔すんな」
「え」

私が自分の顔を嫌いになったのは、あなたに出会ってから。
私、今どういう表情をしてた?「あの人」と同じ表情でもしていたの?
嫌だ、嫌。。。
うつむいた私に、あなたの腕が抱きしめてくる。

「そういう意味じゃねぇ。…んな顔してると我慢がきかなくなるだろうが」
「!私、そんな物欲しそうな顔してましたか?」
「違う」
「じゃあ、やっぱり…」
「それも違うって言っただろ」

あなたの腕の力が増す。

「あんま無防備な顔してると、食っちまうぞ」

私は赤面して、あなたは私の髪に頬を寄せていた。
あなたの腕の中で泳ぐ日も近いような気がした。
そしたらもっと幸せを感じるんでしょうか。もっとあなたに愛されるんでしょうか。
その日が少し怖くて、少し期待している。
そんな恋心を込めながら、私はあなたの温もりを感じていた。

 

- END -