No.204/砂糖増量中。様


勿体ねぇかもな。


もっと触っていて。乾いたその大きな手で私に触れてて。
部屋をあなたで埋めたいくらいに好きだから。

「ロロノアって結構、触りたがりですよね」
「嫌か?」
「全然」

昼下がり、ナミさんの蜜柑畑の縁で二人でそんな会話をしている。
隠れてるんじゃなくて、いい風が吹いて気持ちがいいから。
あなたの腕が私の肩に回ってて、あなたの脇あたりに私は頭を置いてる。

「触りたがりなんて言葉、どこで覚えてきたんだ?」
「ナミさんから聞きました。だからナミさんの受け売りです」

ああ、風があなたの匂いを届けてくれる。
昼間のあなたの匂い、太陽の匂い。太陽が似合うからその匂いも似合う。
そう思うのは好きだからかな。

お腹もいっぱいで、気持ちいい風が吹いて、そばにはあなたがいて。
満ち足りた気分。。。
あなたもそうだともっと満ち足りるのに。
でも少しだけ意地悪心が沸いてきて。ううん、ずっと気になってた事を今なら言える気がして。

「今までの人にもそうだったんですか?触りたがりだった?」
「知るかそんなこと。顔も覚えてねぇし」
「お、覚えてないくらいいるんですか?!」

予想もしてなかった返答に、体が引いてしまう。

「くそコックと一緒にすんな。その場限りだとかなんだかとか、執着してなかったんだろうよ」
「そ、その場限り?!」
「そんなに多くねぇから覚えてねぇよ」
「多いから覚えてないんでしょ!」

言いながら想像してしまった。誰かを抱き寄せてるロロノア。あの噛みつくようなキスをしているロロノア。
この綺麗な目で誰かを見つめてるロロノア。
そうだ、あなたはいつだって慣れてた。私と違っていつだって動揺なんてしてなかった。
ああ、聞くんじゃなかった。思い切りへこんでしまった。
そんな私を見透かしてあなたがフォローをくれる。

「お前には執着したぞ。お前はどうしても欲しかった」

あっさりそういう事を言うあなたに、やっぱり好きだなぁと実感する。
それなのに口はまだへこんだまま。折角あなたが抱き直してくれたのに。

「今までの人も、この角度であなたを見てたんですね」
「だけど今好きなのはお前だ」

さっきまでとはまったく違う痛みが胸にきた。もうお馴染みの、きゅんっていう痛み。

「もう一回言ってください」
「今好きなのはお前だ」
「本当?」
「わーった、誰ともしてねぇことしてやるよ。そこ座れ」

素直に私はそこに正座する。
あなたはごろりと横になって、私の足を枕にした。いつも仰向けで寝る人。

「膝枕ですか?」
「ああ、誰ともしてねぇ」
「私が初めて?」
「つーか特別」

単純に嬉しくなって、私はあなたの短い固い髪を撫でた。

「下から見るお前ってなんかそそるな」
「ね、寝るんでしょ!」
「勿体ねぇかもな」

手を伸ばして私の頬に触れて、そしてあなたは目を閉じた。
私は少し無理して背中を丸めて、あなたにキスする。

「…じゃあ寝る」
「足が痺れたらどかしますからね」
「足を鍛えてんだとでも思っとけ。勝手に離れんなよ。起きていなかったら怒るからな」
「怒ることがいっぱいあって大変ですね」
「おう。怒るネタ増やすなよ」

語尾はもう欠伸まじり。
私は何故か優しい気持ちになって、あなたの髪をまた撫でていた。

 

- END -