No.190/長山ゆう様


膝枕


「ロロノア」

 私の膝に頭を乗せ、大口を開けて眠っている彼の名を、そっと口にする。
 無防備な寝顔を見せる彼は、全く目を覚ます様子がなくて。
 私は、その短い髪に触れてみた。

 ――どうして、この人なんだろう?

 海賊と海兵。敵対する立場なのに、私たちは今、こうして時間を共にしている。
 決して交わることなどあり得ないはずだったのに。
 いつしか惹かれていたのだと。それに気づいたのは、いつのことだっただろう。
 最初から、彼の強さに憧れていた。素直にその気持ちを認めるまでに、時間がかかったのは事実。
 だけど、ただの憧れでは説明の出来ない想いもまた、心のどこかに存在していたのだと…。
 過去に思いを馳せる私の耳に、彼の寝息が聞こえてくる。
 相変わらずぐっすり眠りこけているその顔を見ると、知らず知らず笑ってしまう。

 ──そんなに安心しきった顔で眠るなんて、ズルくないですか?

 そう、思うのに。
 彼の寝顔を見ていると、なんだか嬉しくなってしまって。
 いつしか笑みを浮かべている自分に気づく。
 満ち足りていて、幸せなひととき…。

「ロロノア」

 彼の名を、呼んでみた。
 きっと、目を覚ましはしないから。
 せめてあなたの名を呼んで、そばにいることを確認したくて。

「どうした?」
「え…?」

 思いがけぬ声に、驚いて彼の顔を覗き込む。
 いつの間にか開かれていた深い翠の瞳と、目があった。
 どこか人を食った、悪戯っぽい笑みを口元にはいて、彼は私を見上げている。

「呼んでたろ、俺の名前」
「…いつから気づいてたんですか?」
 なんだか恥ずかしくて、口をとがらせてしまう私に、澄ました顔で彼は答える。
「最初っから」
「狸寝入りしてたんですか」
 やや非難の色を込めた私の言葉に、彼は何の造作もなく言葉を返す。
「寝てたけど、おまえの声は聞こえた」

 ――そうやって、あなたはいつも、不意打ちで私を驚かせるの。

 頬が熱を持ったことに気づいて。どう応えればいいのか迷った私に、彼は優しい笑みを見せる。
「おまえの声は、いつだって聞こえてる」
 いつしか、首の後ろへ回されていた、大きな手のひら。
 その手がロロノアと私の距離を縮めてゆく。
「聞き逃しゃしねェよ。……たしぎ」
 彼の言葉が嬉しくて、その気持ちが嬉しくて。
 やがて、唇に触れた暖かな感触に、私はそっと目を閉じた。

 

- FIN -