No.204/砂糖増量中。様
何の日か知ってますか?
あなたの声は特別。少し低くてハスキーなその声は特別。
ずっと聞いていたいような、私物化してしまいたいような。
そんなあなたの声で名前を呼ばれると、この名前で良かった、なんて思ってしまう。
「あ。」
朝食をとりながら何気なく食堂のカレンダーを見ていて呟いてしまった。
そっか、今日は。。。
「どうしたんですか?何か今日は予定でも?」
サンジさんがそう言って笑顔を向ける。小さなことでも拾ってくれる人。
それにならってみんながこちらに視線をやったので、私は焦って両手を振った。
「いいえ、そんなんじゃないんです。なんでもないんですよ」
なんでもないことはなかったけど、張りきって言えることでもなかったので。
ロロノアがこっちにちらりと視線を送ったけど、気付かなかったふりをした。
まるで私が思ってることを見透かされそうだったから。
午後にはいつも通り、刀を握って汗を流す。ロロノアは今日は昼寝。
視界の端にあなたがいても気にならないくらいに、集中しながらいろんな型を稽古していく。
この時だけは、私の中からあなたが消えるの。きっとあなたもそうでしょ?。
刀と自分の間には何も入れない。あなたと自分の間に何も入れないように。
夜、二人きりになったら私もあなたも恋愛モード。
ソファに並んで座って、他愛のない会話をする幸せ。お酒片手のあなたに体をもたれて足を投げ出して。
まるで子供みたい。そんな私の髪を撫でているあなたの手の感覚も優しいね。
「今日が何の日だか知ってますか?」
「知らねぇ」
「ですよね」
もし気付いてたら感動してしまいます。それくらい小さなこと。
でもその小さな事に朝気付いた私には、今日は特別な日なのです。
「今日、なんかあったか?」
私はにっこり笑った。
「たしぎ?」
「それです」
「あぁ?」
絶対に判らないと思うから、あっさりと種明かしする。あなたはじらすのが嫌いだし。
「あなたがはじめて名前を呼んでくれた日なんです」
そんな小さなことを覚えてるなんて、なんだか恥ずかしいような女々しいような。
それでも私には特別。
日付や事柄を覚えているのは、海軍で報告書を書いてた頃の癖だと思う。便利なものです。
からんとあなたのグラスの氷が溶け出してる。
氷を取ってこようと立ちあがった私の手を引っ張って、あなたは耳元で言った。
「じゃぁ、今日も覚えさせてやる」
「え?今日は別に何もありませんよ?」
「今からする」
あなたは更に手を引いて、私を元いた位置に戻すとそのまま体重を乗せてきた。
「ロ、ロロノア?!お、重い…」
「今の内に慣れとけって。これからもっと重くなるぞ」
「どうしてですか?」
「そういうことするから」
その夜は確かに記念日になった。でも何の記念日かはやっぱり堂々と言えないです。
あなたの肌の直接の暖かさを知った記念日は、私だけの幸せにしておこうっと。
- END -